「Another」特集~綾辻行人先生 特別インタビュー

日常の中に次々と訪れる理不尽な死。その内容から映像化不可能と言われていた学園ホラー小説の傑作「Another」は、2012年にアニメ化されるやいなや大きなセンセーションを呼んだ。アニメ版「Another」はファンだけでなく原作者・綾辻行人からも絶賛されるほどの出来栄え。そしてアニメ最終回から約1年半、見崎鳴の物語が「エピソードS」として再び語られる。執筆秘話とともに作品の読みどころを綾辻先生に伺った。
「Another エピソードS」綾辻行人著
8月3日発売 1575円(税込)
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――「Another」は先生の作品の中で初のアニメ化作品となりました。ご自身ではアニメはよくご覧になりますか?

綾辻 今も気になる作品は観ますよ。最近作だとやっぱり「進撃の巨人」がよく出来ていて、エキサイティングですねえ。僕自身、もともとアニメ世代ですからね。「新世紀エヴァンゲリオン」はリアルタイムで観ていました。あれが終わって何だかお腹がいっぱいになった感じで……しばらくはテレビアニメから離れていたんだけれど、その後たまたま「ローゼンメイデン」を観て、すごく気に入っちゃったんです。いわゆる球体関節人形は昔から好きだったから、ああいう人形たちが動いて話して戦っているだけでもう、楽しくてね(笑)。それでまた東京の人形ギャラリーなんかにも足を運ぶようになって、おのずと「Another」のイメージや世界観につながっていったわけです。「ローゼンメイデン」のオープニング曲を歌っているALI PROJECT(=アリプロ)の宝野アリカさんとも、その頃にひょんな流れで親交ができて、「Another」のアニメでもアリプロに主題歌をお願いしたり……ね。

――アニメ化に際してはスタッフとはどのようなお話しをされましたか?

綾辻 僕から特にお願いしたのは、オープニング曲はアリプロにぜひ、ということくらいだったんじゃないかな(笑)。水島努監督は最初にお会いした時から、「ホラーアニメをやる!」という意気込みを持ってくださっていたのが頼もしかったです。それから、何と言っても脚本の檜垣亮さん。以前から綾辻の本を愛読してくださっていて、「Another」についても彼の作品理解は完璧でね、僕のほうから物言いをつけることはほとんどなかった。映像化は不可能だろうとされている小説の仕掛けも、アニメだったらこのような工夫で実現できるという、そこのところの理解がスタッフの間でしっかり共有されていたので、僕は安心していられました。原作は主人公・榊原恒一の一人称で書いているので、基本的に視点が固定されています。それがアニメになると、視点取りや場面転換が自由自在ですからね、クラスメイトたちのキャラクターの立て方や広げ方も含め、原作者としても観ていてとても面白かったです。

――作品の舞台を90年代末の地方都市にされたのにはどんな理由が?

綾辻 いろいろあるんですが、ひとつ大きかったのは携帯電話の普及率、でしょうか。中学生でも一部の生徒が持っているくらい、という状況が望ましかったので、調べてみたらちょうどこの時代だな、と。でもね、その頃に中高生だった知り合いに当たって、当時の学校の様子を聞いてみたりしたら、今も昔も中学校という“場”の基本的な空気は変わらない気がしたんです。だったら、あまりその時代に寄り添って書くよりも、変わらない共通要素を抽出して書いたほうがいいかな、と。だから結果として、幅広い年齢層に受け入れられたのかもしれませんね。僕と同世代の中高年から若い人たちまで。「Another」の原作を発表して以来、中学生や高校生の新しい読者が増えてくれたみたいで、これはキャリアの長い作家としてはとても嬉しいことでした。

――ヒロインの見崎鳴というキャラクターはどのように作られていったのでしょうか?

綾辻 まずはプロット上の要請があって。あまり生身の人間っぽくない、いるかいないのか分からないような少女が必要だったわけです。主要な舞台として〈夜見のたそがれの、うつろなる蒼き瞳の。〉という人形ギャラリーが出てくるんですが、そこに人形たちと混じって立っていても違和感のないようなイメージで。アニメで見崎鳴を演じてくれた高森奈津美さんは、序盤の感情を抑えたお芝居にかなり苦労されたそうですけれど、すごく良かったですね。「Another」本編を書いている時は誰の声も想定していなかったんだけれど、「エピソードS」の執筆中は確実に、鳴の声は高森さんの声で脳内再生されていました(笑)。

――「エピソードS」の構想はどのように?

綾辻 本編の中で、7月の終わりに昔の卒業生が残したカセットテープを探して旧校舎に忍び込むというエピソードがあって、原作だとここは、男の子たちだけの冒険として描きたかったので、鳴には1週間ほど夜見山の町を離れて海辺の別荘へ行ってもらいました。その期間に実は彼女がこんな事件に巻き込まれていて……という話が書けるな、と思いついたわけですね。最初は、ひと夏のスケッチみたいなライトな短編にしようかとも思ったんですが、いざプロットを立て始めるとどうしても構想が膨らんでいって、400枚の長編になってしまった。ちょっとした外伝というよりも、補完的な続編と言えるでしょう。アニメの「海水浴の回」とはパラレルワールド的な関係なんですが、あの海の話は僕、かなり楽しめたので(笑)、今回の執筆のモチベーションのひとつにはなっていますね。

――執筆に際してご苦労された点は?

綾辻 主人公の賢木晃也はすでに死んでいる人物で、幽霊として登場するんですが、この幽霊一人称の書き方が非常に難しかったです。冒頭、まず幽霊が自分をどのように認識するのかとか、死んだときのことをどのように覚えているのかとか、その辺を説明しなければならない。これをなるべく読みやすく、面白く書くのに腐心しましたね。

――この「エピソードS」によって、また作品世界が広がりました。

綾辻 そうですね。夜見山の〈現象〉は、この年は止まったけれども来年以降また起こるかもしれないわけで……いろいろと今後も大変だなあ、と想像せずにはいられませんから(笑)。もうひとつふたつ続編を書こうかなという気持ちはあるので、皆さんどうぞお楽しみに、ということで。

1960年生まれ。京都大学大学院博士後期課程修了。在学中の1987年「十角館の殺人」でデビュー。以降、新本格ミステリーの旗手として活躍。1992年「時計館の殺人」で日本推理作家協会賞受賞。
©2012 綾辻行人・角川書店/「Another」製作委員会

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